1996年(平成8年)3月24日
読売新聞より抜粋
やすらぎのケア レーザー治療9
数あるレーザー治療の中で、角膜を削って近視を矯正する手術ほど賛否両論が対立している治療法はないかもしれない。
0.1以下が1.0に回復
「以前は声援が飛んでも、客席のどのあたりか分からなかったんです」。デビュー5年目の演歌歌手、叶めぐみさんは、東京・五反田の参宮橋アイクリニックで、近視矯正のレーザー手術を受け、0.1以下の裸眼視力が1.0になった。「お客様の反応がよく分かり、心のキャッチボールができるようで、歌に込める思いも一段と強くなります」と喜ぶ。
PRKと呼ばれるこの手術は、Ⅹ線に近い短波長の紫外線レーザーを角膜に照射し、たんばく質分子を分解して蒸散させる。温度はあまり上がらない。近視は網膜よりも手前に像を結んでいる状態なので、角膜の中心近くを多く、外側ほど少なく蒸発させると、表面が平たくなり、屈折度が弱まって焦点が網膜に近づく。つまり、凹レンズのメガネをかけたのと同じようになる。
叶さんは昨年12月に左眼の手術を受けた。手術台に横たわると、まず奥山公道院長から「正面に見える赤い点をずっと見つめて、視線を動かさないで下さい」と指示された。事前の検査結果から、角膜のどの部分をどの程度蒸散させるかが精密に計算されているが、もし視線が動くと、正確に照射されても、結果的に誤差が出てしまうためだ。
まぶたを閉じないように器具で固定し、レーザーを照射した。奥山院長がペダルスイッチを踏むと、後はすべてコンピュ-ター制御で、40秒で終了。「本当に短い時間でした」と叶さんは語る。
術後30分ほどで点眼麻酔が切れ、かなり痛んだ。翌朝はだいぶ和らいだが、今度は涙があふれてきた。こうした症状がほぼ治まった3日後、不安な気持ちで眼帯をはずすと、遠くがはっきり見えた。5日目に仕事に僅帰。その後、右目の手術も成功した。
PRKが開発される前に、メスで切る近視矯正手術を自ら受けた経験のある奥山院長は「角膜表面の上皮が再生するまで3日間は、細菌などの感染が怖いが、抗生物質の点眼で防げます。術中に視線が動いて乱視になるなどの副作用例はあるが、失明するような重大な事故は、この3年間、約1400眼のPRKを通じて、1件もありません」と、安全性を強調する。ロシアや米国では、かなり普及しているという。
中略
保険がきかない現在、治療費は病院により様々で、同クリニックでは1眼あたり39万円。「装置や治療法、効果にも違いがある。手術を急がず、丁寧に鋭明してくれる病院を選ぶのが良いでしょう」と、奥山院長は話している。