1990年(平成2年)6月2日(土曜日) 読売新聞より抜粋
角膜切開法米ソで盛んに
カメラをぶら下げ、眼鏡をかけ、笑いを浮かべている-外国の風刺マンガでよくみかける日本人像だ。
確かに近眼が多い。しかし、一方で、近眼矯正手術を受け、眼鏡やコンタクトレンズに別れを告げる人もわずかずつ増えてきた。この新しい技術が、日本の眼鏡人口を減らすことになるのだろうか。
消費者・環境問題評論家の船瀬優介さん(東京都練馬区)が、団地の七階にある仕事場の窓から向かいのショッピングセンターをながめる。
「女房と子供が買い物に行くでしょう。そろそろ帰ってくるかなと外を見ると、あっ、いたいたって、かるんですよ」
現在の視力は1.5と1.2。1年前に近眼橋正手術を受けるまでは、0.04と0.06だった。眼鏡なしではほとんど何もできなかった生活が、この1年で大きく変わった。
現在、ソ連、アメリカなどで行われている近眼橋正手術では、RK手術という技法が使われている。RKとは放射状角膜切開術(ラデイアル・ケラトトミー)の略で、黒目の表面をおおう角膜部分に切れ目を入れる手術だ。近眼とは、眼球の前後の長さが変わったり、レンズが厚くなったりして、スクリーンである網膜に映像がうまく結ばなくなる症状をさす。放射状の切れ目が入った角膜は、眼圧で薄くなり、そこを通る光の屈折率が変わる。つまり、光の入り方を変えることで、映像が正しく見えるようにするわけだ。
「でも、目を切開するなんて、最初は冗談じゃないと思いましたよ」こう言う船瀬さんに手術を勧めたのは、旧知の眼科医奥山公道さんだった。モスクワ眼科顕微手術研究所に留学し、RK手術の創始者、S・N・フィヨドロフ博士の教えを受けた。現在、日本国内でRK手術を手がける数少ない医師のひとりだ。長年消費者問題を手がけてきただけに、船瀬さんの医療不信は強かっだ。が、
1年余り迷った未、まだ先のわからない技術なら、自分の体で試してみよう」と、手術を受け、このほど体験を「グッドバイめがね・・コンタクト」(農文協刊)という本にもまとめた。
船瀬さんのように国内で手術をした人、モスクワの研究所へ治療ツアーに行った人など、日本人のRK体験者は約4000人とみられている。本家のソ連や、ソ連から技術の伝わったアメリカなどでは年々手術は盛んになり、一般的な治療方法となりつつある。両国を中心に、これまで全世界で約50万の症例があるといわれる。