第10回ロシア眼科学会参加報告
主催:ロシア保健省、ロシア眼科学会
大会総会長:ロシア共和国保健省第一副首相I・カグラムニャン
ロシア眼科学会会長クリスト・P・タフチジ
日時:2015年6月17日~19日
開催地:モスクワ市、ロシア政府コンベンションホール
学会論文集は、次の13のセクションを掲載。
1.眼科学公衆衛生
2.感染症、アレルギー疾患
3.緑内障
④屈折異常矯正
5.硝子体疾患
6.角膜疾患、角膜移植、人工角膜、眼球組織バンク、細胞移植
7.眼科腫瘍
8.眼科創傷
9.水晶体疾患、
10.小児眼科
11.神経眼科,動眼神経異常
12.眼球付属器及び眼球疾患、
13.眼科診断学
学会プログラム進行は、大、小ホールとセクトルA、B、Cにて実施された。
大会初日は開会式に引続き、午後の部で緑内障の講演が大ホールで行われた。
午後の部、小ホールで屈折異常の講演が行われた。
④の座長アベチーソフ教授がRK後の長期結果における問題点を指摘した。
暗所視力の低下は、近視眼球の眼軸延伸による網膜上の照度低下や術後矯正面が
暗所で瞳孔をカバーしきれない現象による角膜屈折矯正手術の弱点であるが、だからといって眼内レンズ矯正をルーチン化するのも蛮勇に思えてならない。
奥山公道は招待報告の形式で20分の講演「スーパーPRKを通して見たレーザー屈折矯正手術レーシックの問題点を探る」の機会を与えられた。I・カグラムニャン大会会長、クリスト・P・タフチジ ロシア眼科学会会長をはじめ大会関係者に謝意を表する。
「スーパーPRKを通して見たレーザー屈折矯正手術
レーシックの問題点を探る」※写真は、第10回ロシア眼科学会参加報告参照
スライド1、1983年、フィヨドロフ博士、令嬢イリーナ先生、そして放射状角膜切開手術(左眼)を中程度近視矯正の目的で受けた翌日の私。当時内科医であった為、友人若山久眼科博士を招聘、モスクワのフィヨドロフ研究所で放射状角膜切開手術を学んで頂いた。後に、わが国初の近視矯正手術専門眼科医療機関として参宮橋アイクリニック院長をお願いした。
スライド2、曽祖父奥山弘、帯刀を許された黒田藩医、借金や自由恋愛結婚禁止と
新しい医療は自身もしくは身内からという家訓を残す。RK近視矯正手術の取り組みも、先ずモスクワで私が、そして私や若山先生の家族が手術を体験した。
スライド3,1995年、レーザー近視矯正PRK手術を町田のアイクリニックに導入した。フィヨドロフ研究所から、医師、技師が技術指導のために派遣された。
厚労省のPRK治験も同時期に始まり、2000年に認可された。PRKは、レーザービームの種類により太いビームの一括照射方式と細いビームの走査照射方式に分類される。太いビームは発生装置が大きく、使用するガス代が高価で、車のエンジンに例えるとフェラーリ級である。従ってレーザー照射に際して、角膜上皮の擦過やフタ作りは不要で、直接上皮からPRK照射が可能で、トランスエピセリアルT-PRK又は眼に触れずに超薄のスーパーフィシャルなPRKを行うのでスーパーPRKと命名した。
スライド4、第一世代のPRK装置プロファイル300シリーズは、エキシマレーザーエネルギー分布が液状媒体を介してコントロールされる
スライド5、一括照射ビームによる滑らかな矯正面を示す電子顕微鏡写真。
スライド6、第二世代のPRK装置プロファイル400シリーズを参宮橋アイクリニック五反田に導入。エキシマレーザーエネルギー分布がガス状媒体を介してコントロールされる。
スライド7、第三世代のプロファイル500シリーズPRK装置を新大阪駅前鈴木眼科に導入。エキシマレーザーエネルギー分布が光学レンズを介してコントロールされる。
スライド8、マスメディアに患者さん向けの広報活動を行う。
スライド9、医療関係者向けの教本、教科書。
スライド10,11,12,モノフォカスとマルチフォカスによる矯正面(焦点深度)の違い。
焦点深度の違いが.術後の眼の調節系に影響する。スーパーPRKの場合、レーシックのように160マイクロンのフタを作らずに済むので、その分焦点深度が深い矯正面を作り出す。レーシックの場合、約500マイクロンからフタの厚さを除いた340マイクロンから矯正面を作るので焦点深度は浅くなる。浅い焦点深度の矯正面は、遠方視が中心で、中間や近距離において常に過剰な調節負担を生み出す。
スライド13,術前の 近視度とスーパーPRKによる正視達成度
軽度(近視)97.2%で矯正視力低下は0%、中程度92.2%で矯正視力低下は1.3%、強度近視84.1%で矯正視力低下1.2%である。再手術例を含まない。
スライド14, PRKの特徴について列挙する。
主な点は、経上皮のレーザー照射を目に触れずに行い、エネルギー密度による矯正の精度、滑度は高く、段階を踏んで複数回の手術により強度近視の矯正が可能であり、焦点深度の深い矯正面を作り出す。
スライド15.2003年に米国眼科白内障屈折矯正手術学会は、早々にRK,PRK手術に墓碑を立てたが、消費者庁のLASIK被害発表以来、PRKの見直しが進む。
スライド16.モスクワのツェエスカーで活躍した本田選手。レーシック後の調節負担の過剰が伝わるが、本人は否定。
スライド17.PRKとレーシック後10年の経過で、PRKは長期的に1D前後の近視の戻りがみられる。(視環境を考慮した生体反応といえよう。)スマホの台頭で近視矯正の取り組みが変わった。演者自身が手術を受けて30年、老眼年齢を迎えたこともあるが、今やバス、電車で車内広告等、遠方を見ている人は少ない。視環境における近距離の比重は増々高くなる。
スライド18.スマホ時代の近視手術はスーパーPRKかもしれない。左図は焦点深度(被写界深度)の浅いレーシックは遠方視にむいているが、中間,近距離では、調節の負担が大きくなる。右図スーパーPRKは、フタを作らずに角膜の厚さを十分活用、レーザーエネルギー分布の違いを利用し、焦点深度の深い、中間、近距離に過剰な調節負担を強いることがない矯正面を作る。焦点深度の浅い矯正面は、晩期のRK手術においても見られたが、幸いその数は少ない。PRKに移行したからである。初期のRKは、周辺から中央にかけて角膜に一定の深さで切開したので、矯正屈折度にグラーデーションがついた。傍中央部は角膜が薄いので切開が深く、矯正効果が大きく、(近視が残らず)遠方が見やすい。他方、周辺は角膜が厚く、比較的浅い切開になり、矯正効果は小さく、(近視が残り)近距離の視環境に対応する。放射状角膜切開は周辺から中央にかけて行われボーマン膜の関与は定かでない。
スライド19.消費者庁発表のレーシック後の矯正され過ぎは、表現として正確でないように思う。レーシックの角膜解析結果は大方素晴らしく、遠視になった例も少ない。しかし数は少ないが、不定愁訴(頭痛、肩こり、吐き気)や強いドライアイの例を術後長期にわたり見ることがある。以下は仮説ではある。レーシック後の矯正面の焦点深度が浅いのが原因で、しかもフタを切って作る為に角膜が薄いとボーマン膜という上皮と実質の間にある視環境を整える再生センターと大脳皮質の回線が断たれるのではないかと考える。角膜再生のメカニズムがメス、レーザーエネルギー毎に、ボーマン膜の役割と共に解明されていない。1987年フィヨドロフ研究所のハリゾフ、カチャリナが、PRK後のボーマン膜再生を発見して久しい。ボーマン膜が大脳皮質による視環境の不具合是正の実行機関であるなら、レーシック後にも近視の戻りが起きたり、起きなかったりするのは、フタを作る時の切断レベルによって起きると考えられる。レーシック矯正面による過剰な調節負担を大脳皮質がやわらげるための司令が、ボーマン膜に届くか否かが問題になる。再生センターが、フタの裏全面に付着した場合は、司令到達0で、過剰な調節負担による不定愁訴が継続する。再生センターが、実質側に多少とも残れば、大脳皮質のコントロール下に不定愁訴は楽になると考えられる。フタによる切断レベルは、通常160マイクロンであるが、対象となる角膜の厚さの個人差は大きく、ボーマン膜との関係を確認しながらの手術は行われていない。レーシックの発案者パリカリスが、早々にレーシックを止め、フタを極薄のエピレーシックに移行したのに合点がいく。加えて、我が国では幼年期からコンタクトレンズユーザーが多く、角膜の厚さが薄いことも、消費者庁の発表に輪をかけたのかもしれない。レーシック後の不具合としての過剰な調節負担の患者さんには、軽い遠視のメガネを常時かけることをおすすめする。強いドライアイの症状も調節負荷による瞬き減少が原因であろう。
スライド20.レーシックのフタにボーマン膜の全てを含めてしまう例。フタは通常160マイクロンをメドにするが、角膜の厚さは個人差が大きい。後述のスマイルでも同様の現象がフェムトレーザーとボーマン膜再生において、危惧される。
スライド21.レーシックのフタと実質側の両方にボーマン膜が附着し、近視の戻り機能が温存される。
スライド22.ボーマン膜
スライド23.ボーマン膜再生の報告(1987年フィヨドロフ研究所のハリゾフ、カチャリナが、PRK後のボーマン膜再生所見を指摘。実技角膜屈折手術、南山堂1997年、215p)
スライド26.スマイル手術、フェムトレーザーによる角膜の実質空洞化手術により角膜の形状を矯正するが、角膜の厚さによってはボーマン膜の処理を慎重に行わないと、手術はうまくいっても再生機能の一部を失うかもしれない。但し、フェムトレーザーのエネルギー特性がエキシマレーザーと同様にボーマン膜を再生するなら近視の戻り機能が温存され、問題にならないであろう。