近視手術やっと国がお墨付き
厚生省はこのほど、眼科医療用機器のエキシマレーザー装置を近視矯正手術に利用することを承認した。近視を手術で治す発想への国のお墨付き。未承認のまま近視手術が普及してきた現実を追認する措置だが、メガネ、コンタクトレンズに次ぐ視力橋正の正規の柱になるとみられる。
【小原 博人】
承認されたのは、医療機器メーカー・ニデック(愛知県蒲郡市)、米国ビシックス両社の装置。術式は「PRK」 (レーザー角膜形成術)に絞っている。もともとは角膜の混濁を除く手術装置として承認されたものだが、昨年末、同省の中央薬事審議会が「(近視手術に使っても)まぶしさなどの副作用はほとんどない。矯正効果はとても大きい」と、近視手術への転用にゴーサインを出した。安全性と有効性は全国10余の大学・総合病院眼科が両社の委託を受け行ったPRKの治験データに基づいている。
日本の近視手術は1980年代初頭に始まった。当初はダイヤモンドメスによる角膜切開手術だったが、80年代末、エキシマレーザー装置によるPRKが米国から医師の自己責任で導入された。その担い手が非眼科医(主に美容整形医)だったことから、日本眼科医会は近年まで、「近視手術は安全性が不明で、日本には導入しない」と拒否姿勢を見せていた。
だが、治験の集積でPRKの安全性と有効性が証明され、眼科専門医の大勢も2年前には国の承認を求める方向に転換した。「PRK」以外でも「レーシック」「スーパーPRK」などの術式(現状では未承認)が広がりを見せており、治験評価を経て数年内に承認になる可能性がある。
4000万人といわれる近視人口を持つ日本。近視手術への潜在需要は少なくない。プロゴルファーのタイガー・ウッズが昨年、手術(術式は不明)を受けたとの報道も記憶に新しい。
各種の近視手術を手掛けて17年、1万余の症例を持つ屈折矯正の草分けの一人、東京都品川区東五反田の奥山公道医師(参宮橋アイクリニック院長)は「病気でもない近視(実際は病的な状態)を手術するなんてといわれ続けたが、自分も家族も近視手術を受け、安全性と有効性には最初から自信があった。国の認可は近視手術論議にピリオドを打つもの」と説明する。
承認となっても健康保険の適用はない。これまで通り手術費は1眼20万から30万円かかる。だが、術前術後を含め臨床上の注意事項を一般に開示することで、医務行為の過不足を抑えることができる。また、「国自体も副作用や事故の症例によっては責任を問われることがある」 (厚生省医薬安全局審査管理課)。
PRK法を角膜表面に照射して直径6ミリの範囲をミクロン単位で削り、網膜上に像を結ぶよう光の屈折度を矯正する。レーザー照射量はコンピューターで計算する。米国では95年に近視手術への転用が承認されている。装置は1台5000万-7000万円。
2000年(平成12年)2月26日 毎日新聞